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二楽亭へようこそ![されどバナナ、なれどバナナ その11 [小説]

第11話

結局バナナスィーツ勝負の行方は、
接戦ではあったものの、
バナナの芳醇な香りと濃厚な甘さで勝る雨林23号を手に入れた
音音たちの勝ちに終わった。
「コングラッチュレーション音音。
今日は素晴らしいスィーツを食べさせていただき感謝する。
これが、凍結に伴う細胞破砕を防ぎ、
食品の長期保存と食味の低下を大幅に低減することを可能にした
スーパセルライブ製法の詳細だ」
クラークから差し出された書類を素早くめくり、
内容に目を走らせた音音は、
「確かに…」
と言うと笑いながら右手を差し出した。
161119i2.jpg
ウィルス等を仕掛けられるデータではなく、
書類をくれた段階で音音はクラークに対してある種の信頼を覚えていた。
「いつまた、戦場でまみえるかもしれないが、
それまでは、よきライバルでありたい。
できれば若者が傷つき命を落とす戦争は避けたいものだ。
存外、ローマ帝国の再興は近いかもしれんよ」
音音と握手しながらそう言うと、クラークは会場を後にした。
そばで聞いていたキザクラが、
「ローマの再興って、
近々、世界帝国ができるとでもいうのか?
そりゃいくらなんでも無理ってもんだろオッサン…」
とクラークの背中を見送りながら呟いた。
「世界は混とんとしてますから、
何を契機にそうなっても不思議はないと思いますわ…」
「え?」
音音のその言葉に驚いたキザクラが思わず問い返す。
「でも…」
その問いに答えるように、
少し間をあけて音音が話し始める。
「ローマ帝国を支えたのは奴隷制の労働力。
現代はそれを肩代わりして余りある機械と産業用ロボットがありますわ。
本来それはベーシックインカムプラスアルファという対価を得ることができる。
現代版パンとサーカスが実現できるなら、
宗教の並存も可能ではないか、
と言っているような気がしますわ」
キザクラは、
自分の軽口がひっぱり出した音音の言葉が理解できず、
思わず聞き返した。
「そ…それは?」
「つまり第二契約者が、
ほかの宗教を認めるってことですわ」
そう言いながら音音は、
試合中にムジナに言われた、
”クラーク博士は乗り気ではなさそう”
という言葉のことを思い出していた。
学園側に話を通して、
しばらくの間ムジナを弾正台へ借り受けなければと音音は思った。

おわり

二楽亭へようこそ![されどバナナ、なれどバナナ その10 [小説]

第10話

「いやー、
連絡できず申し訳ございませんでした…」
スタジアムではスィーツ勝負が白熱するなか、
オオゼキから音音へ状況報告がなされていた。
「敖環姫(ごうかんひめ)に助けて貰ったまでは良かったんですが、
襲ってきた連中は、
なんかすごい数の船を動員してて海上封鎖されちまって…。
仕方ないんで海中をずっと送って貰ったんですが、
海中だとスマホのタッチパネルがきかない上に、
途中で深く潜りすぎたみたいで陸(おか)に上がっても連絡できなくて…」
「仕方ないのですわ」
オオゼキは、
以前音音がしでかした、
タコ入道騒動の時に懇意になった、
南海竜王の娘・敖環姫とときどき会う中になっていて、
万が一のことを考えて熱海沖合で待機してもらっていた彼女と
その郎党の人魚たちに救われたいきさつと、
予定していた小田原に姿を見せなかった理由を音音に報告した。
「無事に責務を果せて何よりですわ。
この勝負が終わったら、
特上のブルームきゅうりとお酒を届けさせますから、
楽しみにするのですわ」
「そりゃありがてぇ」
「きゅうりはいらねえけど、
おいらもお酒は欲しいなぁ」
そう言いながら現れたのはムジナ。
気配もなく現れたので、
ぎょっとするオオゼキたちをよそに、
「情報次第ですわ」
と涼し気に音音に言われて、
「金の出どころがわかりやしたよ。
それがなんとまあ、ナウマン博士なんですよ」
と答えた。
「ナウマンっ! あの像のナウマン博士か!」
「なんでもナウマン像と恐竜のテーマパークが大当たりで、
相当蓄財してるようでやす」
さすがの音音も驚いたようで、
一瞬言葉に詰まったがぽつぽつと話し出した。
「ナウマン…おばあさま、いいえ、
先代の弾正尹(だんじょうのかみ)も苦戦を強いられたシーボルトの助手…。
ドイツ・ドレスデン東亜博物学・民俗学協会での講演の際に、
日本人の無知、無能ぶりを嘲笑したと言われる
あの男が背後にいるとなると、
第二契約者の日の本での動きが、
再び活発になると思わざるを得ませんわ」
「ナウマン博士からは<禁断バナナ>をチェーン展開しろと
言われてるみたいですが、
目が行き届かなくなるのを嫌ったクラーク博士は、
あんまり乗り気じゃないみたいですね」
「では、今回の対決はどうして受けたのでしょう?」
「道楽グループの品質管理にも
興味はあったんでしょうが、
それ以上にナウマンに対するポーズも必要だったんじゃ
ないでしょうかね?」
「オオゼキ襲撃については?」
立て続けの音音の質問にも、
きちんと調べてあるらしく、
狢は滞ることなく答えていく。
「それも<禁断バナナ>での人員の移動とかがないことを考えると、
やはりナウマン配下の動きだと思われやすね。
では姐さん、引き続き調査を続行しやす」
「頼みます。
ちゃんとお酒はとどけさせますから
思う存分情報をあつめるのですわ」
「合点承知の助だっ!」
報酬に満足した狢は、いさんでスタジアムを抜け出していった。

つづく

「ニ楽亭へようこそ」されどバナナなれどバナナ その9 [小説]

第9話

「オオゼキはまだ?」
「まだ、連絡が取れません。
クボタたちを捜索に出してるんですが…」
糖度20オーバーするバナナ・雨林23号を入手したという連絡のあと、
熱海から、国道134号線沿いに増援を--と
言って寄越したきり、
予定時刻を過ぎても小田原に現れず、
消息が不明になっていた。
化野家の私兵・河童ガードのほとんどを、
海沿いの134号線に動員していたが、
今日、土曜日の12時を回ってもその行方は知れず、
会場のキッチンスタジアムでは、
道楽チェーン側スタッフのイライラが募っていた。
「こうなったら、
確保してある普通の品種でやるしか…」
焦れる桜花に音音は、
「まあ、待ちなさい。
桜花、あなたがそれでは、
みなが浮き足だちますわ」
と他には聞こえないように諭した。
161029j2.jpg
「待てば海路の日和ありと
いうではありませんか?」
音音が言い終わると同時にキッチンスタジアム入り口の扉が開き、
弾正府の面々がオオゼキの帰還を期待して顔を向けるが、
そこに居たのはクラーク博士で、
スタッフ全員ががっくりと肩を落とす。
「ごきげんよう、諸君。
今日はせいぜい頑張って
おいしいデザートをお願いしますよ」
スタッフの落胆など気にすることなく、
そう言ったクラーク博士は、音音の隣のゲスト席に着いた。
すでに200人が収容できる観客席はほぼ埋まり、
1時になるのを今かと待ち構えている。
『みなさま、お待たせしております。
まもなくスタート時間になりますが、
その前に、本日の審査員をみなさまのなかから、
19人をランダムで選ばせていただきます。
これから、
入り口で渡された整理券の番号を読み上げますので、
呼ばれましたら、段上までおいでください』
番号が読み上げられ、
呼ばれた観客がスタジアム脇にある審査員席に座っていく。
時間が押し迫ってくるに従い、
道楽チェーン側のスタッフの焦りが募り、
「チーフ、そろそろ搬入しないと…」
「わかってる! 
もう少し、もう少し待って」
音音がオオゼキの帰還を信じて動かない限り、
配下である桜花が勝手に動くわけにはいかない。
『開始3分前』
「落ち着くのです。
オオゼキが持ち帰るバナナなしには勝ち目はないのですわ。
バナナを手に入れたのは間違いない。
オオザキは必ずやってくるのですわ!」
そう音音が見栄を切ったと同時に、
「お、お待たせしましたー!
オオゼキ以下2名、
雨林23号をお届けに参上ッ!!」
というオオゼキの声がスタジアムに響き渡った。
「でかしましたわ! 
さあさっそく準備にかかるのですわ!」

つづく
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