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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」 その8 [小説]

「あっ…ここは…? 
ボクどうしたんだろう…」
化野総合病院の一室で目を覚ました雪。
昏倒したまま冷気を出し続けた結果、
魔力を使い切り、
丸2日間寝たきりになっていたが、
モニタしていた脳波に覚醒の兆しが出たというので、
雪の病室には、
音音やキザクラたち河童ガードが集まっていた。
「雪…目が覚めた? 
安心なさい、
お母様は無事ですわ」
「あ…」
覚醒時の混乱から覚め、
何が起こったのか理解した雪の目から涙が溢れる。
「本当に? 本当におかあさんは…」
「雪…」
涙声で確かめる雪に話しかけたのは
部屋に入ってきた雪の母だった。
「雪、ずっと帰らなくてごめんね…。
かあさん温かいこっち暮らしに慣れちゃって、
あのときはうっかり間違えて凍っちゃった」
「おかあさんっ!」
そう叫んで上半身を起こした雪は、
ベッドサイド立つ母親の胸に飛び込んだ。

--雪の母・雪子は、
夫である雪男の雪夫と折り合いが悪く、
雪を産むと一方的に離縁された上、
幽冥世(かくりよ)にある一族の里からも追い出されていた。
仕方なく現し世に来た雪子は、
寒さに強いという特性を活かして冷凍倉庫で働いていたものの、
ある日、凍結した床で滑り、頭を強打した結果、
記憶喪失になっていたらしい。
人間を装って働いていたので、
履歴書にある連絡先は偽物で、
テレビで雪の姿を見て記憶を取り戻すまで、
自分が何者で有るかも分からずに働いていたということだった。
「まあ、何にせよ、
再開出来たんだから
あのふたりは私に感謝するといいのですわっ!」
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これからはかわいい雪だけでなく、
妖艶な美人妻ながらドジっ子という
稀有な才能を秘めた雪の母親との2枚看板で
売上倍増は必至というそろばんを弾いた音音の思惑通り、
メディアにも毎週のように取り上げられ、
お店には連日長蛇の列ができ、
夏が近づくにつれその列は長くなる一方だった。
--ところが、
店の斜(はす)向かいに
イケメン雪男と美人雪女郎の氷専門店「美氷」がオープンし、
物見高い客達はそちらへと流れて行き始めた。
「最後は味ですわ」
今は物珍しさで客が流れていると考えた音音だったが、
調べてみると<かまくら甘味道楽>の
平均7分という提供時間の長さが大きな問題になっていた。
雪と雪子がお客様の目の前で氷を作るという
パフォーマンス兼ねた工程に
どうしても時間がかかってしまうわけで、
その工程を最後の仕上げだけ雪女郎と雪男にさせ、
提供時間を約1分と絞り込んだ<美氷>の
すぐ食べられるという戦略に客は反応していた。
それじゃあウチも、としたい音音だったが、
氷の質を落とせば、
質を売りにしている<道楽チェーン>全体への
バッシングにもつながりかねない。
仕方なく現行体制で雪と雪子に頑張ってもらうという
至ってシンプルな戦術に頼るしかなかった。
客足が多少減ったとはいえ、
まだまだ行列は引きも切らず、
お店の面々は八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍で働き続けた。
そんな毎日を続けた結果なのか、
雪と雪子が日に日にやつれていく。
いち早くそれに気づいたキザクラが、
「ありゃ酷い夏バテですぜ。
魔力とはいえ、冷気でかき氷を作ってるんだから
雪女が暑い盛りに身を削ってるようなもんだ」
「休ませて、栄養のある冷たいものでも
食べさせて差し上げれば良いのですわ」
音音の指示で休憩時間を増やしたものの、
食は細くなる一方で、
一同どうしたものかと悩んでいたが、
「ここが潮時ですわね」
という音音の一言でお店は業態を変更することに決まった。
「それにしても不思議ですわね…」
「なにがです?」
「あれだけ食べていて太らないのがですわ。
いくら妖(あやかし)でも、
その妖に合った滋養が高い物を食べているわけですから
太ってもおかしくないはずですの…。
なのにやせ細っていく…」
「…ひとつあっしが探りを入れてみやしょうか…?」
音音が軽く頷いたのを見て、
「ガッテンだ」
と一言残してキザクラが部屋を出て行った。

つづく
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