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豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その44 [小説]

「くっ…」
「きさまっ! なんという卑怯な!
萌から離れろ!! 
こちらにもルーズベルトという捕虜がいるのを忘れたかっ!」
気を失っている萌が
首を締め付けられて呻(うめ)くのを見て薫子が叫ぶ。
それをあざ笑うかのように
ワシントンは勝ち誇ってさらに続ける。
「まったく甘い連中だ…。
本来人質など、戦闘時にはなんの役にも立たんはずなんだがな。
こうまで効果があるとはな、はははっ!
――ルーズベルト?
好きにすればよかろう。
1度ならずも2度までも失敗しおって!
なんなら私が始末してやってもいいぐらいだよ」
ひとしきり笑ったあと、
急に真顔になったワシントンが、
「で、どうするね、弾正尹(だんじょうのかみ)?
この娘の命と引き換えに鎌倉を引き渡すかね?」
と結繪に聞いてくる。
空中に留まっていた結繪は、
稲村ガ崎の沖合いから七里ガ浜の砂浜の上へ降り立つと、
そっと愛刀・子狐丸を砂の上に置いた。
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「結繪さんっ!」
弾正府の面々が口々に叫ぶ。
「…みんなの言いたいことは分かる…」
結繪はそれだけ言うとワシントンをじっと見つめたまま押し黙った。
「まったくおろかな…。
あっけない幕切れだな。
まあいい…これで鎌倉落ちれば、
日の本の完全占領が成る!
我ら第二契約者による世界が
完成する日も近いな…」
満足そうにうなずいたワシントンが
沖合いの艦艇に合図を出した。

つづく

「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その45 [小説]

強襲揚陸艦の甲板からは大型ヘリが離陸を開始し、
開いたウェルドックから、
続々と揚陸艇が吐き出される。
まるで映画のノルマンディー上陸作戦の一場面のように
海は海兵の舟艇でいっぱいになる。
「あれは、
徴兵された南部アメリカ連合の兵士達で、
第二契約者ではない。
まあ言うなれば無辜(むこ)の民だな。
国が違うというだけで、
どちらかと言えば善人の類だ。
そうした人間を、
友人だからという理由で
人質を殺させないお前達が殺せるのか?
友人も、善良な他人も同じ人間なんだからな」
勝ち誇って長広舌(ちょうこうぜつ)になったワシントンの
癇(かん)に障るような笑い声がこだまするなか、
子狐丸の前しゃがんでいた結繪が
すっくと立ち上がった。
「私たちは、
降伏もしなければ、
無辜の民を殺しもしません。
なぜなら、あなたたちが
神とあがめているものは
神などではないんだから--」
「! 貴様っ!
我らの神愚弄するきか!?」
挑発なのか、
超保守なワシントンが信奉する神をけなされ、
怒髪が天を突くかと思われるほどの形相で
結繪をにらみつけるが、
結繪はまったく動じた風もない。
「だってあなたたちの神様の悪口言ったって、
べつに何も起こらないし…。
それってちょっと異能がある存在が神を自称しただけで
ぜんぜん神様じゃないと思うけど?」
「許さんっ!」
怒りに我を忘れたワシントンが、
萌を放り出すと、
一直線に結繪に突進してくる。
足下に転がっている子狐丸をつま先で蹴り上げた結繪は
ワシントンとのすれ違いざまに目にもとまらぬ早さで
鯉口を切り、刀身を一閃させた。
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「い…居合い…だと…」
「ワシントン、
あなたは無辜じゃないから
全然容赦しないけどね♪」
腰から上が前のめりに崩れ落ち、
おびただしい量の血が、
辺りの砂を朱(あけ)に染める。

つづく

「豪快! 両国夢想」第5話「黄昏の国」その46 [小説]

「で、あの海上兵力はどうするんだ?」
上半身を腕の力だけでささえながら
ワシントンが聞いてくる。
「もちろん帰ってもらうよ――ほら」
結繪がそう言って指し示した海上では、
上陸用舟艇が右往左往し、
大混乱の兆しを見せていた。
「バカな…何をしているっ!
戻るな! 侵攻せよ!
鎌倉を! 弾正府を蹂躙(じゅうりん)せよ--っ!」
ワシントンの言葉もむなしく船は母艦へと引き上げていく。
「な…なぜだ…私は命令の変更などしておらんぞ…」
「あなたよりもっと上のほうで
話し合いがあったにきまってるじゃない」
完全にバカにしきった表情でタチアナ皇女大佐が
ワシントンを見下ろしている。
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「貴様…タチアナいやアナスタシア皇女…
オーソドクス(正教)の新致命者(しんちめいしゃ)にまでなりながら、
八百万の妖(あやかし)に強力(ごうりき)しおって、
この裏切り者めっ!
主よ――どうかあの者に天罰を与えたまえっ!」
「何言ってるんだか…。
あなたは都合がいいから
敬虔な信徒を演じてるだけでしょ?」
今度はアナスタシアの高笑いが稲村ガ崎に響き渡った。

つづく

「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その47 [小説]

「私は違う――ずっと信じてた…。
神を信じていれば
神がすべて良いほうに導いてくれると思っていた…。
私の中の許されざる感情も
新致命者になり、神のために働けば
きっと浄化されていくんだろうと思っていた…。
――だけど私は、
家族を殺したボルシェビキたちを許せなかった。
家族の恨みを晴らすためだと思って
どんな仕事もいとわなかった。
私は神の名を語ったヤツに
騙されただけだった。
同様に無辜の人たちを煽動し、
金で動かし、情で操るあなたにも
神を語る資格なんてないっ!」
「かぁ―――っ!
黙れ黙れ! 
それは貴様がオーソドクスの一導師ユダに乗せられただけではないかっ!
それを神のせいにするとは言語道断!
さすがにラスプーチンに騙されたロマノフ家の末、
神を騙るペテン師に騙されるのは血筋と見えるわ!」
自分の流した血の海の中でわめきたてるワシントンの背後に回ったタチアナは、
「――じゃあ何であんたたちは
異教徒相手にいつまでも戦ってるの?」
と言うなり、剣を抜きざま砂に思い切りつきたて左右に振った。
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「がぁっ――っ!」
剣を横にして砂から持ち上げるようにして取り出すと
ワシントンの下半身から伸びた腸や筋肉繊維が
ぶちぶちと切断される。
「これが不滅の完全な肉体?
死んであなたの信じる天国に行くこともできないじゃない…。
こんなでたらめな体にされてまで、
人に信心を勧めるなんて
もしかして、脳みそもいじられてるんじゃない?」
ワシントンが悶絶して前のめりに倒れるを見ながら、
タチアナがにっと笑った。

「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その48 [小説]

「そんなもの、
これ以上他人に勧めないで頂戴――。
三狼!
弾正府のほうで保管して。
ちゃんと上下に分けて封印しないと
ひどい目にあうぞ」
それに頷いた三狼が目配せすると、
数人の男女がワシントンの体に取り付き、
お札を全身に貼り付けて全体を覆ってしまう。
「貴様等何を――」
抗議の声を上げるワシントンの口にもお札が貼られると、
口を開くとこも出来なくなる。
屈強な男達が抱えると、
「大塔宮の土牢にいれておけ」
と三郎が命じた。
男達が待機していた車両2台に分譲するのを見送った結繪は、
「さてと、あなたには、
日本各地で混乱してるアメリカ南部連合をまとめて
本国へ帰ってもらうための指揮を執って欲しいんだけど…」
ルーズベルトの方に向き直って言った。
「いったい何がどうしたと言うのだ?
それも分からずにおいそれと答えられるか」
そう反論するルーズベルトの前に、
タブレット端末が置かれた。
「簡単なことですわ。
本日正午を持って、我々弾正府と第三契約者は、
軍事同盟を締結しましたの」
「バカな、第三契約者のメリットが少なすぎる…」
「ですからもう一つ、
解脱教徒とも平和友好条約を締結しております」
「きさま、今どこにいる?」
「それは軍事機密ですから
お教えするわけにはいきませんわ」
幽冥世(かくりよ)でタチアナ皇女大佐から教えて貰った
イスタンブールにある特異点の存在は、
ごく一部の人間しかしらないのだから、
わざわざ教えてなんかあげない、
その場にいた幽冥世帰還組全員がくすくすと笑った。
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つづく