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「二楽亭へようこそ」その22 [小説]

第6章 その2

《なかなか良い読みですね。
そう、目的はあくまで、ヒュースケンの奪還とした場合は、
それが正解でしょうな》
「姿を現わすのです、ラフカディオ!」
静葉ねえさまがそう告げると、
目の前にイキナリ、少しとぼけた感じの白人男性が現れる。
小泉八雲.jpg
「これはこれは静葉様、おひさしゅうございます」
「100年前に嗅ぎまわって調べ上げたことが、
何か役にたったのですか?」
葛葉ねえさまも、いつになくキツイ口調になってる。
「私に分かったのは『怪談』に書いたことだけです。
結局、ホンの表層のことしかわかりませんでしたよ。
ただひとつ収穫が有ったとすれば、
八百万とも言われる多くのあやかしが存在するこの国では、
行動原理など無いに等しいということだけでしょうか?」
「“囮”だということが見抜かれた割には、
落ち着いておいでですが…?」
静葉ねえさまが、ちょっと考え込むと、
はっとして顔を上げる。
「――まさか…。結繪ちゃん! 
狼部に至急回線をひらくのです!」
「は、はいっ!」
その只事ではない様子に、
理由など聞くより回線を開く。
「二狼にいさま! 
そちらの様子を教えてください!!」
『…ザ……ザザ………』
「にいさまっ!!」
これって……!?
私の様子をみて、不敵に笑う八雲。
「もう少し私にお付き合いいただきますよ。
私の配下どもの歌でもお聴きください。
出よ、聖歌隊!! 
今日は木曜なので、第五調だ。
ビザンチン・チャント(聖歌)斉唱!」
いつのまにか現れた、八雲のうしろに従う男たちが、
耳をつんざくような高音で一斉に歌い始める。
今まで聞いたこともないような不快な音に、
やっと追いついてきた
三狼配下の近衛の生徒たちがバタバタと倒れていく。
私と音音と三狼は思わず耳を押さえたけど、
平気な顔をしている葛葉ねえさまと静葉ねえさまを見て、
八雲がやれやれという感じで呟く。
「さすがにあなた達には効かないようですね…」
それを聞いた葛葉ねえさまが
うふふ、と笑いながら、
「貴様のような小僧の繰り出す技などきかないのです。
音音ちゃん、ここは貴女と静葉に任せます。
私たちは武道棟に戻ります!」
と音音たちに告げると踵を返した。
「いやいや、もう少しお着き合いいただきたい。
第二調!」
タクト代わりに振り上げた腕を振り下ろそうとした瞬間、
その腕にツタがからみついて、
八雲の動きを封じていく。
「う、な、何っ!?」
うろたえる八雲に、
微笑みながら、静葉ねえさまが余裕で答える。
「満月の夜は、植物も元気ですから…」
静葉さまは、月の狐なので、
満月の夜はその霊力が数段上がると言われている。
「葛葉ねえさま、結繪ちゃん、
ここは大丈夫だから、武道棟へ行ってくださいませ」
音音にそう促されて、
「お願いっ!」
とだけ告げると、
私は葛葉ねえさまの手を掴んで、
一目散に武道棟へ向かう。
「結繪ちゃん、完全に後手に回ってしまいました。
…あの方たちが、ヒュースケンの生死をいとわなければ、
ヒュースケンにアンチワクチンを
注入できればいいわけですから」
「アンチワクチン……ワクチンを無効化する…?」
「それだけ、ディアボロの秘密が大きいということでしょう…」
武道棟の入り口に着地すると、
警備をしている猫部の兵が私たちに気付いて、
司の石田敏夫が走り寄ってくる。
「おふたかた、いかがなさいましたか?」
「今、説明している時間はないのです。
ヒュースケンの元へ案内を。急きますっ!」
そう言われた石田は、きびすをかえすと音もなく先を進み、
「ではこちらから…」
と言うとエレベータではなく、
地下へと通じる階段を下り始める。
地下三階に着くと、非常事態のため、防火シャッターが降りていた。
ただ狼部の兵が詰めているにしては、
向こうの気配が静か過ぎる。

第6章 その3につづく
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